研究紹介 Research

宮原 牧子 准教授

バラッド文化とメディア
―18・19世紀のバラッド・ソング・物語詩の出版を中心に―

バラッド

バラッドとは、中世以来ヨーロッパの各地で民衆や吟遊詩人たちがうたい、口伝えで何世紀ものあいだ受け継がれてきた物語歌のことをいいます。バラッドにうたわれるのは、普通の人々の普通の生活であり、わたしたちはそこから歌をつくった名もない人々、歌を受け継いできた名もない人々の心を感じ取ることができるのです。つまり、歴史の本が過去の出来事を伝えるのに対し、バラッドは人々の心の歴史を伝えてくれる大切な資料なのです。やがて、印刷術の発達によって新しいタイプのバラッド「ブロードサイド・バラッド」が生まれました。ブロードサイド・バラッドは、印刷され、路上で売られました。時事的な問題をうたったもので、極めてジャーナリスティックな役割を担っていました。「バラッド詩」と呼ばれる別の新しいタイプの詩が誕生したのは、18世紀に入ってからのことでした。バラッド詩はプロの詩人たちが、伝承されてきたバラッドを真似て作った詩のことをいいます。

バラッド文化とメディア

バラッドの文化は、一般民衆によって創作され伝達されたというルーツを持つ文化事象ですから、聴衆(情報の受け取り手)の存在は大前提です。プロの詩人たちもまた、聴衆への情報伝達を意識し、作品を書き、発信してきました。つまり、メディア性を内包していることは、バラッド文化の一大特色なのです。

たとえば、バラッドから生まれた英国の伝説の義賊ロビン・フッドなど、アウトローを主人公とした大衆文化は社会の代弁、指示、反抗を直接的に反映しています。また、時事ニュースとして創作されたブロードサイド・バラッドは、近代初期のメディアの原型の一つでした。プロの詩人たちは、バラッド文化が本質的に持っていた読者大衆との関わりを利用して、奴隷制廃止や知的財産権の主張など、ダイレクトな社会的メッセージの伝達を目的とした作品を多く書き残しています。このようなバラッド文化を検証分析することは、文化・メディア・社会の相関関係を研究することにもなるのです。

バラッドによって過去の社会を知ること

現在、20世紀までの主要なメディアであった出版によって、18世紀と19世紀のイングランド、スコットランド、アイルランドのバラッド、ソング、物語詩が社会に与えた影響と、出版というメディアによってバラッド文化がどのように受け入られたのかということについて検証しています。

本研究は、2015年度から日本学術振興会科学研究助成費基盤研究(B)の助成を受けて行われています。

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