研究紹介Research

松本 和寿 教授

教育史研究の面白さ

「史料」との出会い

写真は、1947(昭和22)年に文部省が出した「学習指導要領社会科編(Ⅱ)」(試案)の表紙です。学習指導要領は現在も作られていますが、この写真にある1947(昭和22)年度版が最初でした。

しかし、この表紙の中に何か不思議な部分がありませんか?
よく見てください。

タイトルの下に小さく( )書きで(第七学年-第十学年)と書かれていますね。

小学校6年、中学校3年という「六・三制」の学校制度が作られたのもこの年ですが、小学校7年生とか10年生という学年はもちろんありません。ではなぜこのような表記になっているのでしょう。

これは、この学習指導要領が作られた時期、日本が太平洋戦争後の占領下にあり、特に社会科についてはアメリカの影響を色濃く受けて作られた教科であることと関係しています…。

このような「史料」に出会い、様々な時代背景と併せて読み解きながら日本の教育の歴史を多面的・多角的に分析する。これが日本教育史研究の「面白味」の一つです。

現在の研究テーマ

現在、「戦後教育改革期の社会科における道徳的「学力」の測定・評価に関する研究」に取り組んでいます。

みなさんは、小学校や中学校で道徳の授業を受けてきましたね。しかし、戦後日本の学校に「道徳の時間」が設けられたのは1958(昭和33)年です。それまでは道徳教育の中心を担うのは、戦後新しく誕生した社会科とされていました。

教科である社会科で取り扱う以上、学んだ結果を測るためのテストもありました。次に紹介しているのは、1952(昭和27)年度から3年間にわたり国立教育研究所が実施した「全国小学校・中学校児童生徒学力水準調査」の小学校6年生、社会科の問題です。花壇を手入れする作業の分担の仕方について「あなたならどの考え方で仕事をしますか?」と問うています。みなさんならどの考え方を選びますか?

ある学校の花だん係の子供たちが、数班にわかれて、それぞれが分担した花だんに、これからうえる草花の準備にかかりました。その仕事は毎日放課後一時間ずつ働いて、一週間かかる予定です。みんなの仕事のわりふりの話合いもまとまり、花だんづくりがはじまった。みんなはいっしょに仕事をしているのだが、その仕事の考え方にはいろいろあります。あなたならどの考え方で仕事をしますか。次の四つの考え方のうち、賛成する考え方を一つだけ選んで、その番号を答の( )の中にかきいれなさい。

第1の考え方 一生けんめいやってたくさん仕事をしても、早く帰れるわけではないから、終わる時刻までにその日の自分のわりあての仕事がちょうどうまくおわるように事をする。
第2の考え方 人には仕事の早いおそいがあるのだから、自分にわりあてられた仕事だけをできるだけ一生けんめいにやればよい。ほかの人の仕事に気をくばる必要はない。
第3の考え方 自分だけが一生けんめい仕事をしても、ほかの人の中には一生けんめいやらない人も出てくるとそんをするから、皆と調子をあわせて仕事をする。
第4の考え方 自分にわりふられた仕事を早くすませ、まだおわっていない人の仕事を手伝うつもりで仕事をする。

1953(昭和28)年度実施問題(小学校6年 社会科 問題番号2)
国立教育研究所「全国小・中学校児童生徒学力水準調査(第二次中間報告)」1955 から

このような問題の正答・誤答の結果が社会科の「学力」の一部として得点化されていました。また、当時の入試対策問題集には次のような問題も掲載されています。

この研究では、「全国小学校・中学校児童生徒学力水準調査」の具体や当時の社会科における「道徳」的内容の評価の仕方を中心に検討し、それが社会科の授業に与えた影響や「道徳の時間」の特設にどうつながっていくのかについて明らかにしていきます。

本研究は、「科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)」(基盤研究C課題番号5K04272)を受けて行われています。

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