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公開講座「文学と南(3)」②を開催しました【生涯学習センター】

 10月8日(土)、福岡市赤煉瓦文化館(天神)において、公開講座「文学と南(3)―火野葦平・上野英信・佐木隆三・谷川雁」を開催しました。

 第2回目は「上野英信と沖縄」というタイトルで、ご子息の上野朱氏をお招きし、19歳で沖縄から南米メキシコへ炭坑の契約移民としてわたり、数年後キューバへ移り、カストロの革命政権が樹立した1959年ハバナ市で71歳の生涯を終えた山入端(やまぬは)萬(まん)栄(えい)と、萬栄の7歳下の妹で貧困ゆえに那覇の辻遊郭に身売りされたツルの生涯を描いた『眉屋私記』を中心に、社会の底辺部に身を投じなければならなかった民衆の営みを執拗に追いかける記録文学者としての上野英信の在りようがクローズ・アップされました。

 朱氏のお話は、広島で被爆した父英信がこの非人道的なアメリカの行為に強い恨みと怒りを持っていたこと、戦争責任も含め日本をこうした悲劇へ導いた天皇制そのものを完全に否定していたこと、しかし自らも「天皇の業担(ごうか)き」として大日本帝国の臣民として行動していたこと、それゆえ「加害者」としての身の引き受け方を帝国の犠牲になった筑豊や沖縄の民衆をひたすら追いかけ取材し記録することによって、背負っていこうとしていたこと等が語られました。

 『眉屋私記』は萬栄の妹ツルからの聞き書きによって近代沖縄の歴史と山入端一家の家族史がクロスする形で構成されているということでしたが、朱氏が、ツルを取材する父英信の姿と父英信に語るツルの姿を「聞く鬼」と「語る鬼」という相対立する緊張関係でたとえたところはとても印象に残りました。また、沖縄と父英信の関係は、ハネムーンのような相思相愛の形で幕を閉じ、とても幸せな関係であったことが語られました。

 朱氏のお話はユーモアたっぷりで、会場からの質問にも真摯に答えられ、あっというまの2時間でした。コーディネーターは文学部日本語・日本文学科の松下博文教授でした。

報告/文学部:アジア文化学科4年 亀井 遙(公開講座サポーター)

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