お知らせNews

公開講座「日本文学と異文化-インド・中国・日本-①」」を開催しました【生涯学習センター】

10月15日(土)太宰府市いきいき情報センターにおいて、『日本文学と異文化-インド・中国・日本-』の第1回「説話文学に見るインド」が開催されました。
今回の講師は、文学部日本語・日本文学科准教授の宇野智行先生です。
はじめに、今回の講座の中心となる説話「一角仙人説話」の基本ストーリーが紹介されました。この説話は紀元前4世紀から紀元後にかけて成立した『マハーバーラタ』において初めて記述されたもので、聖者として修行を続け特別な力を持つ仙人が、女性の色香にたぶらかされてその特別な力を失ってしまう、という話です。この話はインド・中国・日本の文学に影響を与えます。インドでは『アランブサー・ジャータカ』『ナリニカー・ジャータカ』『大智度論』などの仏教文献にこの説話が取り込まれ、中国では4世紀以降の漢訳経典類、そして日本では12世紀ごろの『今昔物語集』や江戸後期の曲亭馬琴著『雲絶間雨夜月』などの題材にもなります。
『マハーバーラタ』では単なる聖者を紹介する説話でしたが、紀元前2世紀頃に書かれた『ジャータカ』文献では、お釈迦様の前世の話として一角仙人説話が説かれ、教訓的な内容が組み込まれました。これは『ジャータカ』そのものが仏教文献であり、教えを説く書物であるため、一角仙人説話の中にさまざまな仏教的な教訓の要素が付け加えられたからだそうです。このように,インドでは一角仙人説話の仏教化が起こります。
この説話が漢訳経典を通じて日本に伝播すると、そのストーリの細部に改変が加えられます.古代インドにおいて雨に関わる神はインドラ神(帝釈天)で雨を妨げるものが蛇であると言われていますが、日本では龍そのものが雨を司るとされているため、インドラ神は全く描かれていません。また、本来は初心な少年として描かれた主人公も、日本での「仙人=老人」というイメージが反映され、老人となっているそうです。さらには、その徳の高い老人が女性におぼれる様を笑う話に変化させ、「教訓」としての説話の性格も失われています。
近世の歌舞伎十八番「鳴神」では、一角仙人説話を題材としているにも関わらず、宗教的要素も薄れ、エンターテイメント化が大幅に進行しているそうです。このようにインド的要素の変遷や宗教的要素の変遷には、それを受け入れた地域の特性・思想・時代背景などが大きく影響しており、仏教的要素の変遷を辿れば、教訓的内容を娯楽へと改変した過程が分かります。
説話文学だけでなく、仏教の教えも、インドから中国を経由し日本に伝来する際に中国の思想や日本の政治性などが盛り込まれ、もとの思想とはかけ離れた要素を含み持つようになります。それと同じように説話文学も多くの要素が組み込まれて変化していくものであると感じました。
受講者の方々は熱心に話を聴かれ、講義後半の質疑応答では活発なご発言が多数ありました。それに対して宇野先生は丁寧に答えられ、終始和やかな雰囲気で講義は終わりました。
報告/文学部日本語・日本文学科2年 江田翔子(公開講座サポーター)
*今後の予定は、以下のとおりです。
②10月22日(土)
テーマ:近世小説と中国文学
講師:安永美恵(文学部日本語・日本文学科准教授)
③10月29日(土)
テーマ:妖婦の物語-『後漢書』から泉鏡花へ-
講師:桐島薫子(文学部日本語・日本文学科教授)
●公開講座の詳細・受講申込みはこちら
http://www.chikushi-u.ac.jp/campaign/lecture/index.html