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公開講座「文学と南(5)」②を開催しました。【生涯学習センター】

10月21日(土曜日)、福岡市赤煉瓦文化館にて「文学と南(5)」の第2回目「喜界島と安岡伸好・安達征一郎」についての公開講座が行われました。今回は、喜界島から喜界町教育長の積山泰夫氏と郷土史研究家の北島公一氏、埼玉から安達征一郎ご親戚の石田里沙氏をお迎えし、前回と同様、松下博文先生の司会で講座が進められました。

 積山氏は、「安達征一郎―島を愛した男―」と題し、地元紙「南海日日新聞」の安達関連の記事や奄美群島に点在する文学碑の紹介等、多くの資料を示しながら、安達征一郎がいかに喜界島にシンパシーを感じていたかをお話されました。とくに「南海日日新聞」に掲載された「愛島記」の《私は、奄美の二つの海域で、善と悪の相反する海の二つの性格を知った。これは私の小説に底流する、二つの大きな調べ、リズムとなった》という一節は、安達文学を考える際にとても重要な一文だと思いました。氏のお話を聞きながら、喜界島に行って、文学碑巡りをしたくなりました。
 石田氏は、「憎しみの魂(マブリ)と護りの魂(マブリ)」と題し、自ら安達の晩年に接し、また母親から聞いたいくつかのエピソードを交えながら、生活人としての人間森永勝己の像と、厳しい姿勢で原稿用紙に向かう作家安達征一郎の像の落差を紹介し、妻亡き後、妻の出身地の宮崎から姪(石田氏の母親)が住む埼玉へ移住し、死を迎えるまでの時間を、秘蔵の写真を辿りながら、丁寧にお話されました。お話からは、直木賞候補に二回選ばれては落選を繰り返した安達の失望と怨念、そうした中で筆を執り続けた文学に対する人一倍強い執念を感じることができました。
 北島氏は、「安岡伸好作品小論」と題し、自ら編集された『地の骨―安岡伸好作品集』収録の11編を〈奄美分野―「あお鳩の聲」「樫の木の家」「光の中で」「灰の花」「遠い海」「地の骨」「風葬」〉と〈在日朝鮮・底辺社会・歴史・教育現場―「民族の城」「赤いシャボン玉―シンパめいた男」「えゝじゃないか」「換羽期」〉に大別し、これらの作品に底流するのは「奄美の土着性」であり、作品には、島と都会の両方を行き来した多感な少年時代の両者への〈違和感〉〈疎外感〉〈親近感〉が複雑に絡み合っていると述べました。また、氏が語られた「支えあいながら、人を受け入れる」という奄美の精神性には、強い共感を覚えました。

 今回の公開講座は、奄美の地理的空間、歴史的背景、その精神性などさまざまな観点から安岡伸好と安達征一郎の文学についてのお話を聞くという大変貴重な公開講座になりました。「来年もまた奄美文学について公開講座を行ってほしい」という期待の声が数多く聞かれました。