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博物館学芸員課程特別講義「美術館・博物館による地域回想法への取り組み」を実施しました。

6月22日、博物館学芸員課程の「博物館展示論」(担当:大津忠彦先生)の特別授業で、鬼本佳代子先生(福岡市美術館)と、奥村俊久先生(筑紫野市教育委員会)から、美術館・博物館における「回想法」への取り組みについてのお話を伺いました。 

「回想法」とは昔の懐かしい写真や音楽、馴染み深い家庭用品等を見たり聞いたり触れることで、昔の経験や思い出を語り合う一種の心理療法であり、認知症の予防に効果があるとされています。

私自身、学芸員課程の授業中に「回想法」という言葉を初めて聞いたのですが、今回は博物館や美術館と回想法の関係についてさらに深く学ぶことができました。

講義ではまず鬼本先生が、海外の美術館における認知症患者のためのプログラムの取り組み例や、実際に福岡市美術館で行なった「シニア・プログラム」の内容を紹介されました。次に奥村先生は、先進的な試みを行っている北名古屋市などを例にとりあげ、回想法の地域展開における博物館の役割についてお話しされました。

鬼本先生の講義では、高齢化がすでに進展している欧米諸国では、さまざまな高齢者プログラムが美術館において行われており、そのなかに認知症患者のためのプログラムも含まれていることを知りました。現在猛スピードで高齢化の進む日本ですが、博物館・美術館における認知症患者向けのプログラムはあまり普及していないようです。鬼本先生は、アメリカで先進事例を調査された経験を踏まえ、福岡市3館(福岡市美術館、福岡市博物館、福岡アジア美術館)での「シニア・プログラム」の取り組みにチャレンジされたとのことでした。

 福岡市美術館における取り組み

福岡ミュージアム・シニア・プログラムについて

講師:鬼本 佳代子 先生 (福岡市美術館)

博物館学芸員課程特別授業報告 「美術館・博物館による地域回想法への取り組み」 

博物館と地域と回想法 

講師:奥村 俊久 先生 (筑紫野市教育委員会)

奥村先生は、博物館に求められる役割として「社会的課題への対応」が重要となってきている現状をふまえ、ご自身が学芸員として社会的課題に向き合う中で、地域コミュニティ創造のために健康な高齢者を増やす手段として回想法に取り組まれてきたことを語られました。​

私自身、現在大学生であり、高齢者に関わる「回想法」を提供される側でも提供する側でもないため、これまでは「回想法」をどこか遠い存在として感じていました。しかし、今回お話を聞きながら、以前認知症がだいぶ進んでいた祖母が大好物だった角煮を食べた時「角煮」とはっきりと発言したことを思い出し、それが慣れ親しんだ味が記憶を呼び覚ますという回想法の要素のある出来事だったのだと気づきました。将来医療の発展で、薬物療法によるアルツハイマー対策が進む可能性もありますが、非薬物療法としての回想法は、誰でも身近なところで活用できるというメリットがあると思います。

実際に自分が回想法を提供される姿を想像してみると、70代80代の私は、たまごっちやDS、プリクラやプロフ帳を片手に当時一斉を風靡した音楽を聴き懐かしいと感じているかもしれません。様々な資料を保存管理している博物館や美術館が、そのような体験を可能にしてくれる場となっているのでしょうか。今回の講義では、博物館に関わる知識を得ただけではなく、美術館・博物館と老後の自分という、これまで無関係と思っていた事柄が実は繋がっていることに気づかされました。

(学芸員課程履修生 文学部英語学科4年 松隈稚子)

※ この記事は、文学部 日本語・日本文学科、英語学科、アジア文化学科 共通です。仕様上、三学科に同じ記事を掲載しております。

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