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【日文の学び】新2年生(2020年度1年生)の想い ✿No.6

2020年度を振り返る ✿ No.6

   2020年度の1年生(新2年生)に、この一年間を振り返ってもらいました。

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千里の道も、非常事態も

博多青松高校出身
尾前 百花

 二度目の春が来る。未だ遠く先は霞んでいるが、そこにも必ず光は射すのだと知った。
 一年前の春。新しい環境と生活、学びへの期待に胸を躍らせていた。しかし入学式は中止、講義は遠隔授業に。緊急事態宣言下、一家総出の巣ごもり生活が始まった。

 筋トレに励む妹と読書に没頭する両親を横目に、パソコンと睨めっこする毎日。授業を受けてノートをつくって、課題を終わらせてもなお持て余す時間は、ほとんどが台所に充てられた。ある日は手打ちうどん、たこ焼き、各種パン。おやつにクッキー、シュークリーム、各種ケーキ。小麦粉が店頭から消えた一因は我が家にもあると思われる。

 楽しかった。毎日が穏やかに過ぎた。自分のテリトリーで過ごすのは安心するし、さいわいにも特別外出する用事がない。ただ、ふとした時に、焦燥感に駆られた。
 一切外に出ず、四六時中家にいる。仕方ない状況とはいえ、通信制高校にいた頃と何も変わっていないのでは、という不安が傍にあった。画面越しでの学習の日々。今はひたすら知識を吸収し、内省し、言葉による出力をするだけだと言い聞かせた。追い立てられるように、毎日それを繰り返した。それでも、不安に苛まれる日々は変わらない。人と関わっていない。社会と繋がっている意識がない。キャリアの進展も成長も見出せず、ただ停滞しているような自身への、焦燥が常につきまとっていた。

 しかしある理由から、生活に変化が現れる。自動車学校に通った。家庭教師のアルバイトを始めた。これらはいずれも、時間の余裕と身体的・精神的ゆとりがあったからこそ、踏み出せた一歩なのである。人と、社会と繋がる足掛かりとなる行動を後押ししたのは、皮肉にも、焦燥を与えた根本的原因であるこの状況だったのだ。
 課題の一環として自分のキャリアデザインについて考えていた時に、気づいた。この非常事態も、与えられた影響も全て、自分のキャリアになるのだと。どこか遠くに感じている未来も、今踏み出した小さな一歩の延長線上にあるものだ。

 思い切って、後期に一つ、履修する講義を増やした。その一歩が、この原稿に繋がっている。この原稿も、未来に進む自信の一部になる。どんな状況でも光はあって、一つずつ歩みを進めることが大切だと、この非常事態に、知った。

No.120 **********