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【令和✿万葉✿大宰府特集】❀ 新語「令和」の誕生 ❀

この記事は、『筑紫語文』第28号に掲載したコラムを再掲したものです。

 日常生活の中で、新語が生まれる瞬間に立ち会える機会などめったにあるものではない。それがことし、二百二年ぶりに譲位というかたちで天皇の代替わりが行われ、新たな元号が制定された。目の前で「令和」という新語が誕生したのである。

 予定された行事・手続きが粛々と進んでいく中で改元を迎え、新元号の考案者など以前は秘匿されてきたことを当事者自ら公表したりして、選定過程はかなり明らかになった。これまで伝統的に漢籍を出典としてきたが、今回はぜひとも国書から採りたいという意思があからさまに示されたりもした。

 出典は『万葉集』巻五、梅花の歌三十二首に付された漢文序である。この序文には王羲之の蘭亭集序ほか文選など漢籍からの影響が指摘されているだけでなく、和歌のほうにも中国的な教養が反映している。大伴旅人邸で催された梅花の宴自体、中国趣味の知的遊びであっただろう。その辺りのことは、今時の言い方をすれば、スルーされた。いつの間にか万葉集全体が大和言葉、の早とちりが生まれたらしく、4月1日に新元号が発表された翌日、新聞で「大和言葉は元号にしっくりくる」という街の声を目にした時は、それを掲載するメディアのヨイショぶりに呆れてしまった。

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 さて、新語の語形である。ラジオのニュースで初めて新元号を耳にした時、ラ行音で始まることに違和感を覚えないでもなかった。古代日本語では、語頭にラ行音が立つことはほぼなかったからである。だが、そもそも元号そのものが中国由来であり、漢語の話である。漢語にはラ行音で始まる語はいくらでもあり、この点は問題にならない。それより、出典が『万葉集』というならば、「令」を呉音で読んでリョウワとする可能性を検討してもよかった。「大正」のショウは呉音である。「令和」考案者は、なぜこの点に言及しなかったのだろうか。

問題はアクセントである。新語には自然とアクセントが付与される。現在、レイワのアクセントは頭高型(レ]イワと下がる)と平板型(下がり目がない)の間で揺れている。テレビ局では、NHKが暫定的に頭高型としつつ、どちらでも可とする。テレビ西日本(TNC)は頭高型、RKB毎日は平板型と、足並みはそろっていない。「明和」「昭和」など「―和」型は平板化しやすいとの指摘もある。

平板型は、簡単に言えば多数派である。新鮮な出来たばかりの新語は、少数派の頭高型でないとインパクトがない。平板型ではすでに馴染んだ印象になってしまう。何年かは頭高で、そのうち徐々に平板に移行、それも「令和○年」という言い方から先に、というのが、慧眼のアクセント研究者の予想である。おそらくそのとおりだろう。今後の推移を見守りたい。

髙山 百合子(日本語・日本文学科教授)

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No.79 **********